シャンプーや化粧品、キッチン用品、自動車のパーツ……。日常の中でよく目にする「シリコーン」という素材が、2026年5月から大きく値上がりします。
国内シェア1位・世界シェア4位のシリコーンメーカーである信越化学工業が、2026年4月17日に全製品を対象とした価格改定を発表しました。値上げ幅は全品目10%以上で、5月1日出荷分から適用されます。
「シリコーンって何?」「値上がりすると私の生活にどう影響する?」という疑問を持つ方も多いと思います。この記事では、今回の値上げの背景から私たちの身近な生活への影響、そしてこれから先の見通しまで、わかりやすく解説します。
今回の値上げの概要
まず、今回の価格改定の基本情報を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年4月17日 |
| 対象製品 | 信越化学工業シリコーン事業本部取り扱いの全シリコーン製品 |
| 価格改定率 | 全製品10%以上(製品によって改定率は異なる) |
| 適用開始 | 2026年5月1日出荷分より |
| 対象地域 | 国内外 |
信越化学工業は国内のシリコーン市場でトップシェアを持つメーカーです。単一製品カテゴリの全品目を対象に10%以上という改定幅は、業界として見ても比較的大きな価格改定と言えます。
同社は発表の中で「製造コストの削減などの自助努力を続けてきたが、これらだけでは今回のコスト上昇分を吸収することは困難と判断した」と説明しており、企業として限界まで自助努力を続けてきたうえでの決断であることがうかがえます。
そもそもシリコーンとは?身近なところで使われる素材
値上げの影響を理解するために、まずシリコーンという素材について知っておきましょう。
シリコーンは、ケイ素(Si)と酸素(O)が交互に並んだ「シロキサン結合」を主骨格とした有機ケイ素化合物です。オイル状・ゴム状・樹脂状など多様な形態をとることができ、耐熱性・耐寒性・絶縁性・撥水性・消泡性などの優れた特性を持ちます。
なお「シリコン」と「シリコーン」は別物です。シリコン(Silicon)は半導体に使われるケイ素の元素そのもの。シリコーン(Silicone)はケイ素を含む化合物で、私たちの日常生活に幅広く使われる素材です。
私たちの身近にあるシリコーン製品
シリコーンは実に多くの場面で使われています。「数千種類の製品が存在する」と言われるほど用途は広く、気づかないところでも活躍しています。
| 分野 | 主な用途例 |
|---|---|
| 日用品・キッチン | 調理器具パッキン、電子レンジ対応容器のシール、水筒・弁当箱のパッキン |
| 美容・ヘアケア | シャンプー・リンス(なめらか成分)、ファンデーション、乳液・クリーム |
| 建築・住宅 | 窓・浴室のコーキング(防水シール)、外壁目地材 |
| 自動車 | エンジンガスケット、エアバッグのコーティング、放熱材 |
| 電子機器 | CPU放熱グリス、防水処理、絶縁コーティング |
| 医療・食品 | 医療チューブ、食品製造用消泡剤(豆腐・醤油・ジャム等) |
特に化粧品・シャンプーの領域では、シリコーンオイルが「さらっとした肌触り」「まとまり感」「崩れにくさ」を実現するための原料として広く使われています。また、ティッシュペーパーのやわらかさや柔軟剤の仕上がり感にも使われており、身近な日用品の品質を支える素材でもあります。
値上げの背景:なぜ今、10%以上も上がるのか
今回の価格改定の背景には、複数のコスト上昇要因が重なっています。
原因① 中東情勢の影響によるナフサ価格の急騰
シリコーンの主要原料は、ナフサ(粗製ガソリン)から作られるトルエンやキシレンといった化学物質です。ナフサは原油を精製する過程で得られ、石油化学製品全般の基礎原料として非常に重要な素材です。
2026年2月末からの中東情勢の緊迫化により、ホルムズ海峡を通じたナフサ供給が大きく制限されました。シンガポールのナフサスポット価格は2月27日比で約60%上昇し、2026年3月の国産ナフサ価格(速報値)は62,893円/kLという高水準が続いています(各種報道・業界データをもとに作成)。
日本はナフサの中東依存度が非常に高く、国内消費量の多くを中東からの輸入に頼っています。ナフサは国家備蓄の対象外で民間在庫は約20日分しかなく、供給不安が直接コストに響きやすい構造です。
原因② 製造コスト全体の複合的な上昇
信越化学工業の発表によると、値上げの背景はナフサ・原材料だけではありません。以下のようなコスト増加が複合的に重なっています。
- 製造用エネルギー費の高騰
- 人件費の継続的な上昇
- 工場建設費・設備補修費の上昇
- 物流費の上昇
- 製品容器など副資材の値上がり
同社は「今後もさらなるコスト増加と高止まりが見込まれる」としており、一時的な現象ではなく、構造的なコスト上昇として受け止めていることが読み取れます。
参考:過去の値上げ履歴
信越化学工業のシリコーン値上げは今回が初めてではありません。
| 実施時期 | 内容 |
|---|---|
| 2022年5月出荷分より | 全製品10%以上の値上げ |
| 2024年7月出荷分より | 全製品10%以上の値上げ |
| 2026年5月出荷分より(今回) | 全製品10%以上の値上げ |
繰り返す値上げは、原材料・エネルギーコストの構造的な変化を反映しています。
家庭・生活者への影響はどこに出るか
シリコーン自体は一般消費者が直接購入する素材ではありませんが、それを使った製品の価格に徐々に反映されていく可能性があります。
比較的早期に影響が出やすい分野
建材・住宅リフォーム コーキング材や防水シーリング材はシリコーンを主原料とするため、リフォームや新築工事の費用に影響が及ぶ可能性があります。現在、ナフサ高騰による建材全般の値上げが相次いでおり、シリコーン材料の値上げはその流れをさらに後押しする形になりかねません。
自動車部品・整備費用 エンジン周りのガスケットや各種シール材にシリコーンが使われているため、部品交換費用が上がる可能性があります。
電子機器・家電製品 スマートフォンや家電の製造コストにシリコーンが含まれており、将来的な製品価格への転嫁が懸念されます。ただし電子機器は素材コストの構成が複雑なため、すぐに価格に反映されるとは限りません。
時間差で影響が出る可能性がある分野
シャンプー・化粧品・日用品 シリコーンは化粧品やシャンプーの原料として使われていますが、製品全体のコスト構成の中での比率を考えると、価格転嫁まで一定の時間差が生じるのが一般的です。ただし、すでにナフサ由来の原料全般が値上がりしている現状では、今後数カ月のうちに関連製品の価格改定が相次ぐ可能性は否定できません。
食品包装材 汎用合成樹脂の取引価格は3月比で3割上昇しているとの報道があり、食品包装材を中心に値上げが波及しつつあります。夏にかけて小売物価にも反映される恐れがあると指摘されています(日本経済新聞、2026年4月15日)。
シリコーンは完成品の中に「見えない形」で使われていることがほとんどです。気づいたときには複数の素材値上げが積み重なった結果として製品価格が上がっているというケースが多くなりそうです。
今後の見通し
原料価格の動向
ナフサ価格の今後は、中東情勢の展開に大きく左右されます。2026年4月時点では情勢の先行きが依然として不透明です。
政府は中東域外からのナフサ調達量の増加を進めており、米国産などの代替調達を本格化していますが、米メキシコ湾からのタンカーは通常の2倍の約45日を要するため、供給改善には時間がかかる見通しです。
価格転嫁の波及タイミング
シリコーンは製造コストの上流に位置するため、価格転嫁が消費者の手元に届くまでにはタイムラグがあります。工業用製品・部品への影響は比較的早く現れやすく、消費財(化粧品・日用品など)への転嫁は半年〜1年程度かかるケースもあります。
代替素材の難しさ
シリコーンが持つ「耐熱・耐寒・耐薬品性・生体への安全性」をすべて兼ね備えた代替素材はほとんど存在しないと言われています。そのため短期間での代替は難しく、値上がり分を吸収しながら使い続けるメーカーが多いと見られます。
家計への影響を和らげるためにできること
シリコーンそのものを家庭で節約することは難しいですが、関連製品のコスト増に対していくつかの工夫ができます。
キッチン・日用品の長期使用 シリコーン製調理器具はすぐに買い替えが必要なものではありません。適切に使えば長期間使用できる素材なので、傷みが来るまでは買い替えを急がないことも選択肢のひとつです。
住宅リフォームの計画的な実施 浴室や外壁のコーキング補修など、シリコーン材料を使うリフォームを予定している方は、早めに業者に相談して現時点での価格を確認しておきましょう。複数の業者から見積もりを取り、適正価格を比較することも重要です。
化粧品・ヘアケアの選択肢を広げる シリコーン配合の化粧品やシャンプーの値上がりが気になる方は、シリコーンフリー(ノンシリコン)製品を選ぶことで、一部製品ではコストを抑えられる可能性があります。成分表示を確認して自分に合った製品を選ぶことをおすすめします。
まとめ:シリコーン値上げが示す「素材コスト高騰」の現実
今回の信越化学工業によるシリコーン全製品10%以上の値上げは、中東情勢の緊迫化に伴うナフサ価格の急騰と、製造コスト全体の上昇が重なった結果です。
シリコーンは私たちの生活の至るところで使われる素材であり、その値上げはすぐに家庭の家計に響くわけではありませんが、製品価格への転嫁は時間の問題とも言えます。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 値上げ幅 | 全製品10%以上(2026年5月1日出荷分より) |
| 主な原因 | ナフサ価格急騰、エネルギー費・人件費・物流費の複合上昇 |
| 影響が出やすい分野 | 建材・自動車部品・日用品・化粧品・電子機器・食品包装材 |
| 消費者への影響時期 | 数カ月〜1年程度の時間差で価格転嫁の可能性 |
| 今後の見通し | 中東情勢次第。短期での改善は不透明 |
中東情勢が落ち着き、ナフサ価格が安定に向かうことが、今後の値上げ圧力を緩める最大のカギです。引き続き原料市況と関連製品の価格動向を注視していきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 信越化学工業のシリコーン値上げはいつから適用されますか?
A. 2026年5月1日出荷分から適用されます。信越化学工業シリコーン事業本部が取り扱う全シリコーン製品が対象で、値上げ幅は全品目10%以上(製品によって改定率は異なります)となっています。
Q. シリコーンが値上がりすると、シャンプーや化粧品の値段も上がりますか?
A. 可能性はありますが、すぐに店頭価格が変わるとは限りません。化粧品やシャンプーの最終価格にシリコーン原料コストが転嫁されるまでには、数カ月〜1年程度の時間差があることが多いです。ただし、今後の値上げラッシュの一因になる可能性は否定できません。
Q. シリコーンとシリコンは何が違うのですか?
A. シリコン(Silicon)はケイ素の元素そのもので、半導体の材料として有名です。シリコーン(Silicone)はケイ素を含む有機ケイ素化合物で、オイル・ゴム・樹脂など多様な形態をとり、日用品・化粧品・自動車・建材など幅広い産業で使われています。今回値上げが発表されたのは「シリコーン」です。
Q. なぜ今、こんなに値上がりするのですか?
A. 主な理由は、中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡の事実上の封鎖です。シリコーンの製造に使うナフサの大半は中東からの輸入に依存しており、供給が制限されたことでナフサ価格が急騰しました。これにエネルギー費・人件費・物流費など製造コスト全般の上昇が重なっています。
Q. シリコーン製品に代わる素材はありますか?
A. 耐熱性・耐寒性・耐薬品性・生体安全性をすべて兼ね備えたシリコーン特有の性能を持つ代替素材はほとんど存在しないと言われています。特に医療用途や高温環境が求められる産業用途での代替は難しく、短期間での切り替えは現実的でないケースが多いです。

