「また値上げか…」と感じている方も多いのではないでしょうか。2026年春、旭化成グループが複数の製品・事業にわたって相次ぎ値上げを発表・表明しました。サランラップのような身近な日用品から、ポリエチレン樹脂・エラストマーなどの工業原料、さらにはヘーベルハウスを展開する旭化成ホームズの戸建て住宅価格まで、グループ全体で広範な価格改定が動いています。
なぜ一つの企業グループがここまで多岐にわたる製品を値上げするのか。その背景にあるのは、中東情勢の悪化に端を発するナフサ(粗製ガソリン)の供給不安です。この記事では、旭化成グループの各製品ごとの値上げ内容を整理し、家計への影響と今後の見通し、そして私たちができる対策を解説します。
旭化成グループとはどんな会社か
旭化成は、化学・住宅・医療の3つを柱とする日本の大手総合化学メーカーです。売上高は2兆円を超え、グループ会社は国内外合わせて100社以上に上ります。
一般消費者にとって最も身近なのは、食品ラップ「サランラップ」でしょう。しかし旭化成の事業は食品包装材にとどまらず、ポリエチレンやエラストマー(合成ゴム)などの石油化学製品、建材・断熱材、そして住宅(ヘーベルハウス)まで幅広く手がけています。
つまり旭化成グループの製品は、私たちの日常生活の「包む・建てる・守る」という場面のあちこちに使われているのです。その広さゆえに、今回のナフサ価格急騰は、グループ全体を横断する形で値上げの波を引き起こしています。
今回の値上げの根本原因:ナフサ価格の急騰
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が引き金に
旭化成グループの値上げの根本にあるのは、ナフサ(粗製ガソリン)の調達難と価格急騰です。
ナフサとは、原油を精製して得られる石油製品の一つで、プラスチック・合成繊維・合成ゴム・塗料など幅広い化学品の基幹原料です。日本はナフサの約6割を海外から輸入しており、そのルートの多くがホルムズ海峡を通過します。
2026年に入り、中東情勢の緊迫化によってホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となったことで、ナフサの供給が急激に細りました。価格面でも、2月末に1トンあたり600ドル台後半だったナフサ市況が、2週間余りで1,100ドル前後まで急騰しました。
旭化成の工藤幸四郎社長は2026年4月15日の経営説明会で、「ナフサ価格は残念ながら倍近くになっている」と述べ、価格転嫁による値上げが避けられないとの見方を示しています。
ナフサの国内在庫は「約20日分」しかない
日本国内のナフサ民間在庫は約20日分とされており、余裕はほとんどありません。石油は国家備蓄(約230日分)がありますが、ナフサは備蓄制度の対象外です。
旭化成社長は同説明会で、ナフサ調達について「日本全体で6月中旬から6月末くらいまでのめどは立った」と述べる一方、高騰した価格での調達が続く見込みを示しました。米国・中南米などへ調達先の多角化も進めているといいますが、輸送コストが割高になるため、値上げ圧力は続く見通しです。
【製品別】旭化成グループの値上げ内容まとめ
旭化成グループの値上げは、業務用原料から消費者向け日用品、さらには住宅まで多岐にわたります。以下に確認されている主な値上げをまとめます。
① ポリエチレン全製品:約30%超値上げ(4月1日出荷分〜)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | サンテック-LD、サンテック-HD、サンテック-EVA、クレオレックス、サンファイン(全5種) |
| 値上げ幅 | 1kgあたり120円以上(約30%超) |
| 実施時期 | 2026年4月1日出荷分より |
| 主な用途 | 包装材・ごみ袋・食品トレー・電池用絶縁材(セパレーター)など |
ポリエチレンは国内で生産される樹脂の中で最も多く使われる素材です。包装材やごみ袋など、私たちの生活に欠かせない製品の原料となります。直近数年間の値上げが数円〜数十円規模だったのに対し、今回は120円以上という異例の大幅改定となっています。
旭化成は国内のポリエチレン生産能力の約7%を占める規模のメーカーです。すでに日本ポリエチレンやプライムポリマーも値上げを決めており、業界全体での値上げが波及しています。
② エラストマー・ラテックス製品:1kgあたり160円以上値上げ(4月1日出荷分〜)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | BR、SBR(ジエン・タフデン・アサプレン)、SBS、SEBS(タフプレン・タフテック等)、SBラテックス |
| 値上げ幅 | 全製品1kgあたり160円以上 |
| 実施時期 | 2026年4月1日出荷分より |
| 主な用途 | タイヤ・防振ゴム・靴底・アスファルト改質材・接着剤など |
エラストマーは合成ゴムの一種で、タイヤをはじめとした自動車部品や生活用品に幅広く使用されます。これらの値上げは、自動車部品や生活用品のコスト上昇につながる可能性があります。
③ ウレタン樹脂原料(デュラノール・デュラネート):約15%値上げ(4月10日出荷分〜)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | デュラノール(ポリカーボネートジオール全製品)、デュラネート(全製品) |
| 値上げ幅 | 現行価格より約15% |
| 実施時期 | 2026年4月10日出荷分より |
| 主な用途 | デュラノール:車のシート向け合成皮革・家電向け塗料/デュラネート:車の補修塗料・建物外装塗料 |
この値上げは、自動車の内外装コーティングや家電製品の塗料コストに影響します。消費者が直接買う製品ではありませんが、自動車の修理・板金費用や家電製品の製造コストへの波及が懸念されます。
④ 断熱材(ネオマフォーム・ネオマゼウス):10〜15%値上げ(4月1日出荷分〜)+供給制限
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象製品 | ネオマフォーム、ネオマゼウスおよび関連製品 |
| 値上げ幅 | 10〜15% |
| 実施時期 | 2026年4月1日出荷分より |
| 追加情報 | 原料調達制約により受注制限・納期調整を実施中 |
旭化成建材が製造する「ネオマフォーム」は、高性能な断熱材として住宅建築で広く使用されています。値上げに加え、供給遅延や受注制限も発生しており、住宅建築現場への影響が深刻化しています。
⑤ 旭化成ホームズ(ヘーベルハウス):戸建て住宅の値上げ予定
旭化成ホームズは、ナフサ価格の高騰を受けて戸建て住宅の値上げを予定していることが報じられています(具体的な値上げ幅・時期は現時点で非公表)。
一般に戸建て住宅の建築費のうち6割を資材費が占めており、ナフサ由来の断熱材・塗料・塩化ビニール管などがその中に含まれます。すでに大手ハウスメーカー9社の坪単価は3年連続で全社上昇しており、今回の資材高騰がさらに追い打ちをかける形となっています。
⑥ サランラップ:値上げ表明(時期・幅は未定)
旭化成の小堀秀毅会長は2026年4月13日、看板商品である食品包装材「サランラップ」について、「在庫が切れてくればコストが非常に高くなる。少しずつ値段に転嫁をしていく」と述べ、値上げが避けられないとの認識を示しました。
具体的な値上げ幅・実施時期はまだ発表されていませんが、現在の高値ナフサが在庫に反映され始めるタイミングで段階的に価格転嫁が進むものと見られます。
旭化成グループ値上げ一覧表
| 製品・事業 | 値上げ幅 | 実施時期 | 家計への影響 |
|---|---|---|---|
| ポリエチレン全製品 | 1kgあたり120円以上(約30%超) | 2026年4月1日出荷分〜 | ごみ袋・食品包装材の値上げへ波及 |
| エラストマー・ラテックス | 1kgあたり160円以上 | 2026年4月1日出荷分〜 | タイヤ・自動車部品・靴底コストへ波及 |
| ウレタン樹脂原料 | 約15% | 2026年4月10日出荷分〜 | 自動車塗装・外壁塗料コストへ波及 |
| 断熱材(ネオマフォーム等) | 10〜15% | 2026年4月1日出荷分〜 | 住宅建築・リフォームコストへ波及 |
| ヘーベルハウス(戸建て住宅) | 未定 | 予定(時期未発表) | 住宅購入価格の上昇 |
| サランラップ | 未定(段階的転嫁) | 未定 | 食品包装フィルムの値上がり |
私たちの家計にどう影響する?
旭化成グループの値上げは、工業用原料が中心ですが、その影響は時間差を伴いながら消費者の生活に波及してきます。
近い将来に影響が出やすいもの
ごみ袋・保存袋 ポリエチレン製品の値上げは、ごみ袋や食品保存袋の値上げに直結します。日本サニパックなどのメーカーもすでに30%以上の値上げを発表しており、2026年5月下旬以降に店頭価格への反映が始まる見込みです。現在数百円台のゴミ袋(45L・50枚入り)は、1パックあたり100〜200円程度の上昇が見込まれています。
サランラップ 旭化成会長が段階的な値上げを明言しており、在庫が切れ始めるタイミングで価格転嫁が始まる見通しです。具体的な時期は未発表ですが、2026年夏以降に値動きが出てくる可能性があります。
やや時間がかかるが影響が大きいもの
住宅価格 旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)の値上げ予定は、これから家を建てようとしている方に大きな影響を与えます。断熱材の供給制限も重なっており、着工スケジュールの遅れが生じるケースも報告されています。
自動車の修理・板金費用 塗料原料(デュラネート)の値上げは、自動車補修用塗料のコスト上昇につながります。板金・塗装修理の費用が上がる可能性があり、自動車保険での修理費カバー額の不足に注意が必要です。
家電製品・日用雑貨 ポリエチレンは、食品トレーや各種容器・包装材にも広く使われます。スーパーのお惣菜トレーや飲料容器のコスト増加が、製品価格の上昇につながってくる見通しです。
今後の見通し:値上げはいつまで続くのか
当面は高止まりが続く可能性
旭化成社長が「6月中旬から6月末くらいまでの調達のめどは立った」と述べたように、ナフサ調達の目処は短期的には確保されています。しかし価格は「倍近く」に高騰しており、調達先の多角化(米国・中南米など)で得た原料は、中東産より輸送コストが高くなります。
ナフサ市況の落ち着きには、中東情勢の改善が不可欠です。仮に停戦が実現したとしても、一度寸断されたサプライチェーンが正常化するには数か月単位の時間がかかるとみられています。
7月以降の製品価格への本格波及に注意
ナフサ価格の上昇が最終製品の価格に転嫁されるまでには、通常1〜3か月のタイムラグがあります。4月〜5月にかけて工場出荷価格が改定されると、その影響が消費者の手元に届くのは2026年夏から秋にかけてになると考えられます。
家計への影響を和らげるための対策
値上げが続く状況であっても、工夫次第で家計への影響を抑えることは可能です。
ごみ袋・ラップ類の買い方を見直す
ごみ袋やサランラップは消耗品のため、価格が上がる前に「まとめ買い」する選択肢があります。ただし、過度な買いだめは社会的な品薄を招くこともありますので、2〜3か月分を目安に賢く備える程度が望ましいでしょう。
代替品の活用も効果的です。シリコン製の保存容器や蜜蝋ラップなど、繰り返し使えるアイテムに切り替えることで、ラップ類の消費量を減らすことができます。
住宅建築・リフォームを検討している方へ
旭化成ホームズの値上げ予定や断熱材の供給制限を踏まえると、住宅建築・リフォームを検討している方は早めに見積もりを確定させることが重要です。また、断熱材については代替製品(グラスウールなど)の活用も選択肢の一つです。
補助金制度も積極的に活用しましょう。「先進的窓リノベ2026」などの省エネリノベーション補助金は、断熱性能の向上工事に活用できます。
自動車の維持費を見直す
塗料原料の値上げが板金・塗装修理費の上昇につながる可能性があることから、こまめなメンテナンスで車体を傷から守ることが、長期的な節約につながります。
自動車保険の内容を見直し、「車両保険」の保障内容が現在の修理費水準に見合っているか確認することも一つの対策です。
シュリンクフレーションにも注意を
価格が据え置かれていても、内容量が減るいわゆる「シュリンクフレーション」の形で実質的な値上げが進む可能性があります。ごみ袋であれば「枚数が減った」、ラップであれば「長さが短くなった」といった変化に注意してください。
単価(1枚あたりの価格・1mあたりの価格)で比較する習慣をつけると、実質的な価格変動に気づきやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. サランラップはいつ、どれくらい値上がりしますか?
A. 2026年4月時点では、旭化成会長が「少しずつ値段に転嫁していく」と述べており、値上げ自体は避けられない見通しです。ただし、具体的な値上げ幅や実施時期は発表されていません。ナフサ在庫が切れ始めるタイミングで段階的に進むとみられており、2026年夏〜秋以降に変化が出てくる可能性があります。
Q2. ごみ袋は本当に値上がりするのですか?
A. はい、すでに複数のメーカーが値上げを発表しています。日本サニパックが全製品を30%以上値上げすると発表しており、2026年5月下旬以降の出荷分からスーパーやドラッグストアの店頭価格に反映されてくる見込みです。現在700〜800円程度の45Lゴミ袋(50枚入り)は、1パックあたり100〜200円程度の上昇が見込まれています。
Q3. ヘーベルハウスの住宅はどれくらい値上がりしますか?
A. 2026年4月時点では、旭化成ホームズが戸建て住宅の値上げを「予定」していることは発表されていますが、具体的な値上げ幅・実施時期は非公表です。直近3年で大手ハウスメーカー9社中8社の坪単価が100万円を超える水準まで上昇しており、今後もその流れが続く可能性があります。契約を検討している方は、早めに見積もりを入手することをおすすめします。
Q4. 旭化成グループの値上げはいつまで続きますか?
A. 根本原因であるナフサの調達環境が改善しない限り、値上げ圧力は続くとみられます。旭化成社長は6月末まで調達のめどが立ったと述べていますが、それ以降の見通しは中東情勢に左右されます。ナフサ価格が落ち着くまでには数か月〜それ以上かかる可能性があり、2026年中は厳しい状況が続くことも想定されます。
Q5. 旭化成以外でも同様の値上げはあるのですか?
A. はい、ナフサ高騰を受けた値上げは業界全体に広がっています。三井化学系のプライムポリマーや日本ポリエチレンもポリエチレンを値上げしており、断熱材ではカネカ・デュポン・スタイロ・JSP・積水化学なども相次いで40〜50%の値上げを発表しています。旭化成グループに限らず、石油由来原料を使う幅広いメーカーで同様の動きが見られます。
まとめ
旭化成グループの2026年春の値上げを整理すると、以下のポイントが浮かび上がります。
- 根本原因はナフサの供給不安と価格急騰。ホルムズ海峡の事実上の封鎖が引き金となっており、中東情勢の行方に左右されるポリエチレン(30%超)・エラストマー(160円/kg以上)・ウレタン樹脂原料(15%)・断熱材(10〜15%)がすでに値上げ実施済み
- サランラップは値上げを表明、ヘーベルハウスは予定。時期・幅はまだ未発表
- 消費者への影響は1〜3か月のタイムラグを経て、ごみ袋・食品包装・住宅価格などに波及してくる見込み
- まとめ買い・代替品活用・補助金の活用で家計への影響を和らげる工夫を
今回の値上げは旭化成グループ単独の問題ではなく、石油化学産業全体に広がる「ナフサショック」の一部です。今後の中東情勢と製品価格の動向を継続的に確認しながら、家計の準備を進めていきましょう。

